HOMESCM・戦略なぜ今、物流を経営戦略に変えられないのか?ーー経営戦略におけるCLOが果たす役割ーー

なぜ今、物流を経営戦略に変えられないのか?ーー経営戦略におけるCLOが果たす役割ーー

2024年問題を経た今も、多くの日本企業では物流を「コスト削減の対象」として扱い続けています。帝国データバンクの調査(2024年1月)(※1)では、物流の2024年問題により「マイナスの影響がある」と回答した企業が68.6%に達し、そのうち「物流コストの増加」を挙げた企業は66.4%に上りました。こうした課題の根本には、物流が経営の意思決定から切り離された「現場の問題」とされてきた構造的な課題もあります。本記事では、物流がなぜ今なお「現場のコスト問題」として扱われ、経営戦略として位置づけられにくいのか、その構造的な理由とCLOが果たす役割について整理します。

日本企業の物流が経営戦略に昇格できない3つの構造的問題

物流コストが「見えていない」

多くの日本企業では、輸送費・保管費・荷役費・物流管理費・包装費などの科目や部門ごとに分散しているコストを「物流コスト全体」として把握できていません。JILS(公益財団法人日本ロジスティクスシステム協会が実施した「2024年度物流コスト調査」では製造業、卸売業、小売業、その他のすべての業種において売上高物流コスト比率が増加したとの結果がでています(※2)。一方で物流コストの可視化が不十分であれば、削減すべき余地や投資対効果の説明が困難です。また、コストの最適化には全体を俯瞰した重みづけが必要であり、全体を統括する役割として「物流統括管理者」(Chief Logistics Officer、以下CLO)が必要となります。こうした背景をもとにCLOが最初に取り組むべき最優先事項は、物流コストの全体の「見える化」です。輸送費だけでなく、在庫保有コスト(在庫金利・倉庫料・廃棄ロス)、物流管理人件費、返品コストまでを含めた総物流コストを算出することが、経営戦略の起点となります。

物流が「部門最適」の縦割りに閉じている

日本企業の典型的な物流問題は「部門間の壁」です。営業部門は売り上げを最大化するため多品種・小ロット・短納期を要求し、製造部門は生産効率を優先してロット生産・在庫積み増しを行うことで、物流部門はその結果として複雑な在庫管理や輸送負荷を引き受けることになります。各部門が自部門のKPIを最適化した結果、サプライチェーン全体では過剰在庫・欠品・輸送の非効率が発生します。

この「部分最適による全体的な非効率」は、物流を現場レベルの問題として扱っている限り解決は困難です。CLOが必要とされる理由の一つは、こうした部門最適を越えて、全体最適で意思決定する役割を担うためです。

「2024年問題」対策が場当たり的な運賃値上げ受け入れで終わっている

帝国データバンクの調査では、2024年問題への対応策として最も多かったのが「運送費の値上げ受け入れ」(43.3%)でした。これは短期的には避けられない対応ですが、物流構造そのものを変える施策ではなく、課題の先送りにとどまる可能性があります。物量・輸送頻度・リードタイム要件は従来のままというケースも多く、物流コスト構造の抜本的な見直しにはなっていません。

また、国土交通省は迫りくる物流の2030年問題で、対策を講じない場合に輸送能力が34.1%不足するという試算を示しています。時間的猶予がない中、場当たり的な対応から脱し、物流スキーム全体を再設計する経営判断が求められています。

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サプライチェーン最適化が生み出す「プロフィット」と「LTV」

在庫コスト削減がもたらす資本効率の改善

サプライチェーン最適化の最もわかりやすい効果のひとつが「在庫コストの削減」です。在庫には、単なる「商品の金額」以上のコストが発生しています。入出庫料、保管料、管理人件費・廃棄ロス・保険料なども合わせて考える必要があります。

たとえば、年間在庫高が10億円の企業が在庫水準を20%削減できれば、保有コストの削減だけで年間数千万円規模の利益改善効果が生じます。大手飲料メーカーや消費財のメーカーが積極的にSCM最適化に取り組む理由の一つに、在庫の適正化が挙げられます。これは単なる物流費削減ではなく、在庫資産の圧縮を通じた資本効率の改善として捉えるべきテーマです。

納品スピードと物流品質が顧客生涯価値(LTV)を高める

物流は、今や企業と顧客の最後の接点です。BtoCでは商品の納品スピードや配送品質、梱包品質が購買体験の満足度を左右し、BtoBでは欠品率・納期遵守率・リードタイムが取引継続の評価基準となります。物流品質が顧客満足度に影響し、リピート率・契約継続率を通じてLTVに直結することは、多くの事業において共通しています。

CLOが物流KPIとして「欠品率」「納期遵守率」「配送クレーム件数」を経営指標に組み込み、顧客体験の品質を担保することは、営業・マーケティング投資と同等以上の「LTV向上施策」として位置づけることができます。物流を販売後の「コスト」ではなく、「顧客との関係を維持・深化させる戦略的接点」として捉え直す視点が必要です。

人材不足時代における「物流スキームの再構築」

2030年には物流を「運ぶ人」だけに依存できない時代が来る

少子高齢化による労働力不足は、物流業界において特に深刻です。野村総合研究所の推計(※4)では、2030年の全国のトラックドライバー数は約35%不足するとされています。また、人口減少が激しい地域では40%以上不足するといった試算も出ています。「頑張って採用すれば何とかなる」という発想が、最早通用しなくなる時代が目前に迫っています。

こうした状況において、CLOに求められる役割の一つが「物流スキームの根本的な再設計」です。現状の配送頻度・ルート・リードタイムを前提に物流を維持しようとすれば、コストは上昇し続け、いずれサービス維持が困難になります。「現状を維持する物流」ではなく、「制約条件が変わった世界に対応する物流スキーム」を設計することが、経営レベルの課題です。

物流スキームの再構築

競合他社を含む業界内での共同配送・共同物流は、積載率向上と輸送コスト削減を両立しやすい有力な手段です。「競合と組む」という発想は現場レベルでは生まれにくく、経営判断として推進する必要があります。国土交通省の総合物流施策大綱(2021〜2025年度)(※3)でもトラックの積載効率を50%(2019年度37.7%→目標50%)に引き上げることがKPIとして設定されており、共同化・集約化が政策の方向性でもあります。

「当日発注・翌日納品」「多頻度小ロット」といった商慣行は、物流負荷を大きく押し上げます。CLOが営業・調達部門と連携し、発注・リードタイム慣行の見直しが必要となります。発注ルールや納品条件の見直しを交渉することで、物流側の作業量・輸送量を削減しながら、顧客サービス水準の維持を目指します。こうした見直しは、物流現場だけでは変えられず、経営レベルの意思決定が必要です。

倉庫内作業の自動化(AGV・ロボット・WMS高度化)やDXは、人材不足への中長期的な対応策です。ROI評価を含む投資判断は複数部門にまたがるため、CLOが主導して意思決定する必要があります。

CO2排出削減への対応は、物流においてもグリーン調達・投資家・顧客の評価に影響します。トラックから鉄道・船舶へのモーダルシフトは輸送コストの削減と排出削減を同時に達成できる手段であり、CLOが中長期計画として経営戦略に組み込む必要があります。

物流を経営戦略にしている企業の3つの特徴

物流KPIが経営会議に定期的に上程されている

物流を経営戦略として実装している企業では、物流KPI(在庫回転率・欠品率・納期遵守率・CO2排出量など)が月次・四半期の経営会議資料に定常的に盛り込まれています。これにより、経営層が物流の現状を定量的に把握し、投資判断・改善優先順位の決定に物流データが活用されます。

サプライチェーンデータが一元管理・可視化されている

調達・生産・在庫・輸送・販売のデータが、部門間で共有・統合されている企業は、サプライチェーン全体の状態をリアルタイムで把握し、迅速な意思決定が可能です。先進企業では、サプライヤーを含むサプライチェーンデータを一元的に可視化し、需給管理の意思決定スピードを高める取り組みが進んでいます。データの統合・可視化は、CLOが経営にコミットするための「情報インフラ」となります。

物流の議論が「コスト交渉」ではなく「価値設計」になっている

物流を戦略として捉える企業では、3PLや物流事業者との議論の中心が「いかにコストを下げるか」ではなく、「どうすれば顧客価値を高めながら物流全体の効率が上がるか」という視点になっています。物流事業者を「コスト削減の相手」ではなく「サプライチェーン戦略のパートナー」として位置づけることで、長期的な協力関係が生まれます。また、CLOが経営の視座でステークホルダーとの関係性を構築・維持することが、サプライチェーン全体の競争力強化につながります。

【物流の経営戦略化チェックリスト】

□ 物流コストの総額(輸送費・在庫コスト・物流管理費を含む)を経営指標として把握している

□ 物流KPIが経営会議・取締役会の定期報告資料に含まれている

□ 在庫・輸送・販売のデータが部門横断で可視化・統合されている

□ 物流に関する投資判断(DX・自動化・共同化)が経営レベルで行われている

□ CLOまたは相当する意思決定権限を持つ役員・責任者が存在する

複数項目に当てはまらない場合は、物流がまだ経営指標として十分に扱われていない可能性があります。まずは物流コストとKPIの見える化から始めるのが有効です。

高﨑 洋輔 
[監修者の視点] SBフレームワークス 営業責任者

物流が変わらなければ、経営は変わらない

日本企業の物流は、長年「企業の無理を吸収する後工程」として機能してきました。多品種・小ロット・短納期・過剰品質——こうした要求に応え続けることで、物流現場は疲弊し、コストは積み上がり、ドライバー不足によって今その限界が露わになっています。
人材不足、GHG排出削減、デジタル化の進展——環境の変化はもはや「現場の工夫」で対処できる範囲を超えています。経営判断として物流スキームを再設計し、サプライチェーンをプロフィットの源泉として捉え直すこと。それがCLOに課せられた最大の使命です。
「物流を変える」とは、倉庫やトラックを変えることではありません。経営者がサプライチェーン全体を戦略資産として認識し、データとKPIに基づいて意思決定する組織に変わることです。CLOは、その変革を経営の側から推進するドライバーです。

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まとめ

日本企業の物流が経営戦略に昇格できない根本的な理由は、「物流コストが見えない」「部門最適の縦割り構造」「場当たり的な対応で終わっている」という3つの構造的問題にあります。この問題を経営レベルで解決することがCLOの使命です。

サプライチェーン最適化は、在庫コスト削減という利益改善だけでなく、欠品率・納期遵守率の改善を通じた顧客生涯価値(LTV)の向上という形で企業の収益力強化に貢献します。人材不足が加速する2030年に向けて、物流スキームの再構築を推進することが、今まさに必要とされています。

【出典情報】

(※1)帝国データバンク「2024年問題に対する企業の意識調査」(2024年1月)

(※2)公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)「2024年度物流コスト調査報告書」(2025年4月)

(※3)国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」、「2024年問題」関連資料

(※4)野村総合研究所(NRI)2030年ドライバー数推計

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用語解説

SCM(Supply Chain Management)

サプライチェーン全体を統合的に管理し、調達・生産・物流・販売の各プロセスを最適化する経営手法。部門や企業の壁を越えてデータを共有し、全体最適を実現することで、コスト削減とサービスレベルの向上を目指す。

サプライチェーン

原材料の調達から生産、在庫管理、物流、販売、消費者への配送に至るまでの一連の供給の流れ。各工程が連鎖的に繋がっており、全体を最適化する視点が求められる。

KPI(Key Performance Indicator)

目標達成の度合いを測るための定量的な指標。物流では、誤出荷率、在庫回転率、積載率、配送リードタイム、出荷生産性などがKPIとして用いられる。DXの効果測定においても、事前にKPIを設定し、改善度合いを数値で把握することが重要とされる。

物流DX

物流業務全体(配送・輸送・倉庫保管・荷役・包装・流通加工)をIT・AI・IoTなどのデジタル技術を活用して根本から変革する取り組み。単なるシステム導入や紙の電子化ではなく、業務プロセスや判断基準、役割分担を再設計し、持続可能な物流体制を構築することを目的とする。

ROI(Return on Investment)

投資に対してどれだけの利益を得られたかを示す指標。物流DXやシステム導入の際には、初期投資額に対してどの程度のコスト削減や生産性向上が見込めるかをROIで事前に試算し、投資判断に活用する。

監修者プロフィール

高﨑 洋輔 

SBフレームワークス 営業責任者

物流現場の最前線で20年以上、日々のオペレーションから改善活動まで数多く経験。現場目線とデータの両面から課題を整理し、顧客の業務に合った物流ソリューション提案を日々行う。LOGi INSIGHTでは、ロジスティクスのヒントをわかりやすく解説します。

監修者詳細 →

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