ドローン物流とは?メリットや実用化の課題、実証実験の事例を解説

監修者プロフィール

SBフレームワークス マーケティング/広報
玉橋 丈児
物流×輸配送×テクニカルソリューションで、お客様の課題解決を目指すSBフレームワークスのマーケティング担当。テクニカルソリューション分野での実務経験を活かして、弊社のサービスや、業界の話題などを解説いたします。物流技術管理士補。
物流業界では、人手不足や配送需要の増加への対応が迫られており、近年ドローン物流に対する注目度が高まっています。ドローン物流を社会実装できれば、配送時間の短縮や山間部・被災地への配送が可能になります。
しかし、現時点では法整備や技術面の課題が残っており、実用化には至っていません。将来的にドローン物流の導入を検討している企業は、実用化に向けた政府の取り組みや実証実験の事例などを把握しておくことが大切です。
本記事では、ドローン物流のメリットや実用化の課題、実証実験の事例を解説します。
目次
ドローン物流とは

ドローン物流とは、ドローン(小型の無人航空機)を使って荷物を配送する新しい物流の仕組みです。道路や交通渋滞の影響を受けず、最短ルートで荷物を届けられるため、とくにラストワンマイル(物流の最終拠点からエンドユーザーに荷物が届くまでの最終区間)配送での活用が期待されています。
また、ドローン物流は、AIやIoTを活用して物流全体をデジタル管理する「スマートロジスティクス(スマート物流)」の一環です。人手不足の解消や配送効率の向上につながる手段として注目されています。
ドローン物流が注目されている背景

ドローン物流が注目されている背景には、深刻化する人手不足と配送需要の急増が挙げられます。
日本ロジスティクスシステム協会の資料によると、1995年から2015年にかけて道路貨物運送業のドライバー数は減少しています。

画像引用:公益社団法人 日本ロジスティクスシステム協会「ロジスティクスコンセプト2030」
2030年にはトラックドライバーの人数が51.9万人になると予想されており、2015年から2030年の15年間で24.8万人減少(3割減)する試算です。
一方で、EC市場の拡大や24時間配送の普及により、荷物量は増え続けています。このような現状から、上空を飛行して荷物を運ぶドローンは、人手不足を補い配送の効率化を実現する次世代の手段として注目を集めています。
政府が法改正やガイドライン整備を進め、実用化に向けた環境づくりを後押ししている点も、ドローン物流が注目されている背景といえるでしょう。
ドローン物流の実用化に向けた政府の取り組み状況

ドローン物流の実用化に向け、政府は以下の取り組みを行っています。
- 改正航空法の施行によりドローンのレベル4飛行を解禁
- ドローン配送のガイドライン策定
- ドローン操縦に関する資格制度を創設
それぞれの内容について詳しく解説します。
改正航空法の施行によりドローンのレベル4飛行を解禁
2022年12月に改正航空法が施行され、ドローン物流の社会実装を進めるために、レベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が解禁されました。ドローンの飛行レベルは、現在以下の4つに分かれています。
| レベル | 内容 | 活用場面 |
| 1 | 目視内での人による操縦飛行 | 空撮、橋梁点検 |
| 2 | 目視内での自律飛行 | 農薬散布、土木測量 |
| 3 | 無人地帯における目視外飛行 | 輸送の実証実験 |
| 4 | 有人地帯における目視外飛行 | 荷物の配送、建設現場の測量 |
法改正以前はレベル3の無人地帯でのみドローンの目視外飛行が可能でした。レベル4の解禁以降は、住宅街や商業エリアなどでもドローン配送ができるようになっています。これにより、物流での実用化が大きく前進しました。
さらに2023年12月には、レベル3と4の間に新しくレベル3.5飛行が設けられ、レベル3飛行で必須となっていた補助者や看板の配置などの飛行制限が段階的に緩和されています。操縦ライセンスを保有するなどの条件付きで無人地帯での飛行が可能となり、ドローンによる荷物配送の事業化が促進されています。
参考:
国土交通省「無人航空機レベル4飛行ポータルサイト」
国土交通省「レベル3.5飛行の許可・承認申請について」
ドローン配送のガイドライン策定
ドローン物流の安全性と事業化の両立を図るために、国土交通省は2023年3月に「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」を公表しました。
改正航空法によるドローンのレベル4飛行解禁に伴い改定されたものであり、レベル3・4飛行によるドローン配送を検討する企業向けの指針となっています。ドローン物流の導入方法や事例など、物流でのドローン活用に関して明記されており、内容にもとづいて準備を行うことで、申請や運用をスムーズに進められるようになりました。
活用に向けて行うべきことの目安が具体的に示されたことで、今後はドローン物流の社会実装がより現実味を帯びるといえます。
参考:
国土交通省「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0(検討会)」
国土交通省「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン Ver.4.0」
ドローン操縦に関する資格制度を創設
ドローンのレベル4飛行を安全に行うために、操縦者の知識と技能を証明する新しい資格制度「無人航空機操縦者技能証明」が創設されました。無人航空機操縦者技能証明は、以下の2つに区分されています。
| 区分 | 概要 |
| 一等無人航空機操縦士 | 立入管理措置を講じずに行う特定飛行に必要な技能を有することを証明する資格 |
| 二等無人航空機操縦士 | 立入管理措置を講じて行う特定飛行に必要な技能を有することを証明する資格 |
特定飛行とは、以下の要件に該当するドローン飛行を指します。
| 項目 | 特定飛行に該当する要件 |
| 領域 | ・高度150m以上の上空 ・空港周辺の上空 ・人口密集地の上空 ・緊急用務空域 |
| 飛行方法 | ・夜間飛行 ・目視外飛行 ・人や建物と距離を確保できない飛行 ・催事場所の上空での飛行 ・危険物の輸送 ・荷物の投下 |
レベル4飛行を行うには一等資格が必須となり、無資格での飛行は認められません。レベル4より下位の飛行を行う場合は、原則として資格は不要です。ただし、二等無人航空機操縦士の証明を取得することで、特定飛行の実施に必要な許可・承認を省略できます。
資格制度の導入により、安全性を確保しながら事業者が安心してドローン配送に取り組める体制が整いつつあります。
参考:
国土交通省「レベル4飛行実現に向けた新たな制度整備」
国土交通省「無人航空機操縦者技能証明」
国土交通省「無人航空機 飛行許可・承認申請ポータルサイト」
ドローン物流のメリット

ドローン物流のメリットは、主に以下の2つです。
- 配送にかかる時間を短縮できる
- 道路状況に左右されずに配送できる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
配送にかかる時間を短縮できる
ドローン物流には、配送にかかる時間を短縮できるメリットがあります。ドローンによる配送では、上空を飛行して最短距離で荷物を配送するからです。
また、直線ルートで上空を横断するため、交通渋滞の影響を受けず、配送の遅延も起こりにくくなります。即日配送や再配達への対応もしやすく、顧客満足度の向上と業務効率化の両立を目指せるでしょう。
道路状況に左右されずに配送できる
ドローン物流なら、道路状況に左右されずに配送できます。ドローンでは、道路を通らずとも上空から配送場所へと直接アクセスできるからです。車両が入りにくい山間部や災害時の孤立地域への荷物の配送も容易となるでしょう。
災害などで道路が寸断されても配送を継続できるため、事業継続の観点でも有効です。
ドローン物流の実用化における課題

ドローン物流の実用化には、以下のような課題があります。
- 配送可能な距離や積載量に制限がある
- 天候による影響を受けやすい
- 盗難の恐れがある
ドローン物流を安全かつ効率的に導入するためには、上記の課題を理解し対策を講じることが大切です。
配送可能な距離や積載量に制限がある
ドローン物流が完全な実用化に至るには、配送可能な距離や重量が限定的という課題が残ります。
ドローンは主にバッテリーで駆動することから、バッテリー容量によって飛行できる距離が制限されます。また、小型の航空機であるため、原則として重量物は運べません。40kg超えの荷物を運搬できる輸送特化型の大型ドローンもあるものの、バッテリーを激しく消耗するため航続可能距離が短くなります。
現在は、航続可能距離が50km未満の機体が主流ですが、軽量バッテリーやハイブリッド電源の開発が進み、実用化の範囲は年々拡大しています。
機体重量によっても積載可能な重量は変わるため、「どこへ」「何を」運ぶか具体的な活用方法を検討することが大切です。
天候による影響を受けやすい
上空を飛行するドローンは、強風や降雨による姿勢の不安定化や通信障害など、天候の影響を受けやすい特性があります。
強風や豪雨などの悪天候下では、破損や墜落のリスクが高まるため、ドローンの運行を見合わせる必要性も出てくるでしょう。とくに台風が多い季節や豪雪地域では、稼動率が低下する可能性があります。
このような課題に対応するためには、悪天候時でも安定性を維持できる機体の選定や、気象データと連動した運行管理システムの導入などの対策が欠かせません。
盗難の恐れがある
ドローンによる配送では、着陸地点などで荷物・機体の盗難リスクがあります。ドローンは機体のみで配送できるとともに、飛行時には無人となるためです。
盗難リスクを軽減するためには、飛行ルートの工夫やGPSの精度向上、セキュリティ機能の強化などの対策が必要になります。
ドローン物流の市場規模の展望

ドローン物流の市場は、政府による法整備や企業の実証実験の進展を背景に、急速に拡大しています。
公正取引委員会の資料によると、2022年度におけるドローン物流サービスの国内市場規模は約24億円(※)でした。2023年度以降は市場規模が徐々に拡大しており、2028年度には防犯、土木・建築、空撮サービスを追い越し、860億円以上になる見込みです。

画像引用:公正取引委員会「2023年度、日本国内におけるドローンビジネスの現状と今後の展望」
法整備と技術開発の加速により、今後はさらに市場が拡大していくことと予想されます。企業は、ドローン物流の動向を早期に把握し、将来的な導入に向けた情報収集を進めることが重要です。
※参考:公正取引委員会「2023年度、日本国内におけるドローンビジネスの現状と今後の展望」
ドローン物流の実用化はいつ?当初の予測より遅れ気味

ドローン物流の社会実装は、当初2025年頃と見込まれていましたが、現時点では一部地域での試験運用段階にとどまっています。市場の関心が高まる一方で、法制度や安全基準の整備に時間を要しており普及が遅れています。
また、バッテリー性能や通信安定性などの技術面の課題が残っていることも、ドローン物流の実用化が難航している要因といえるでしょう。技術面の課題に関しては現在、国や企業が連携して機体の改良を進めており、改善の兆しが見えています。今後は、地方自治体や民間企業が連携して事業化を進めることが期待されます。
ドローン物流の実証実験事例

現在ドローン物流の実用性が認められている実証実験として、2つの事例を紹介します。自社におけるドローン物流の活用方法を検討する際の参考にしてください。
ラストワンマイル配送の実証実験|KDDI株式会社
大手通信キャリアのKDDI株式会社と、コンビニエンスストアのフランチャイズ展開を行うローソンは、山間部での物流課題解消を目的に、埼玉県秩父市でドローン配送の実証実験を行いました。
埼玉県秩父市は山間部が過疎化傾向にあり、近年配送のドライバー不足が課題となっていました。
そこで、ローソン店舗と道の駅を中継拠点とし、各物流営業所に届く荷物を集約。モバイル通信で遠隔操作できるドローンを使用して、山間部の自宅や集会所へのラストワンマイル配送を実施しました。
通信が不安定になりやすい山間部では、衛星通信システム「Starlink」を利用し、安定した遠隔操縦を実現しています。
通信インフラ事業者としての技術力を活かした取り組みです。
都市型高層マンションへのオンデマンド配送の実証実験|楽天株式会社
インターネット関連サービスを手がける楽天株式会社は、都市部でのオンデマンド配送を想定し、千葉県内の高層マンションでドローン配送の実証実験を行いました。
住人が専用サイトで商品を注文すると、約12km離れた物流センターからドローンが自動飛行し、マンション屋上まで届ける仕組みです。配送対象となった商品は、救急箱や非常食、医薬品です。非常時に避難が困難になる高層の建物へと物資を届けられるかどうかを検証しました。
都市部の災害時物資輸送や即時配送の有効性を確認できた初の実験であり、今後の都市型ドローン物流モデルの確立に向けた重要なステップとなりました。
ドローン物流の普及に備え最新情報のキャッチアップを

ドローン物流は、トラックドライバー不足を解消し、配送効率や事業継続力を高める可能性を秘めています。社会実装のためには課題が残っていますが、法整備や技術開発が進んでいることを踏まえると、近い将来実用化されるでしょう。
ドローン物流をスムーズに導入できるよう、最新の動向をキャッチアップしておきましょう。
監修者プロフィール

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玉橋 丈児
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